【公認心理師解説】ストレスと上手に付き合うためのコーピングという考え方― こころを守る「おまもりリスト」のすすめ

コーピングが増えると、こころは折れにくくなる
――「おまもりリスト(コーピングリスト)」が私たちを支えてくれる理由
「仕事で上司に細かいミスを指摘された」
「パートナーが家事を手伝ってくれない」
「母親の介護で疲れている」
「仲の良い友人と意見が合わなかった」
こうした出来事は、人生の“特別な事件”というより、日常のあちこちに普通に置かれています。
そして私たちは、そのたびに(意識していても、いなくても)何らかの対処をしながら生きています。
たとえば「美味しいものを食べて発散する」。それ自体は、とても自然で大事な方法です。
でも、もし体調や体重の変化でそれが使えなくなったらどうでしょう。
頼っていた方法が封じられた瞬間、ストレスが一段階上がってしまうこともあります。
だからこそ提案したいのが、ストレスに対して「これしかない」を減らし、“選べる”状態を増やすこと。
心理学では、ストレスへの対処法のことをコーピングと呼びます。コーピングを準備しておくことは、ストレスを消すためというより、ストレスが来たときに戻って来られる道を増やすことに近いかもしれません。
このコラムでは、ストレス対処法としての「コーピング」とは何かという基本的な考え方から、問題焦点型・情動焦点型といったコーピングの種類、そして日常で実践しやすい「おまもりリスト(コーピングリスト)」の作り方・使い方までを、心理学の視点を交えながら解説していきます。
「ストレスに強くなりたい」「自分に合った対処法を知りたい」と感じている方が、無理なく取り入れられるヒントを持ち帰っていただけたら嬉しいです。
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コーピングリストとは
コーピングリストとは、ストレスに対する自分なりの対処法をリスト化したものです。
ストレスは「同じ出来事でも、反応は人によって違う」ところが厄介で、同時に面白いところでもあります。同じ“上司の指摘”でも、「やる気が出る」人もいれば、「怖くて固まる」人もいる。同じ“家事の不公平感”でも、「怒り」が前に出る人もいれば、「寂しさ」が前に出る人もいる。
だから、正解の対処法が一つに決まることはあまりありません。むしろ役立つのは、自分の反応に合った対処の候補を、いくつか持っておくことです。
そしてリスト化のいちばんのメリットは、しんどいときに「考える力」が落ちていても、“見るだけで選べる”状態を作れること。気合いや根性ではなく、仕組みで自分を助けるのが、コーピングリストです。
コーピングリストが注目される理由
コーピングリストが注目される理由は、シンプルに言えば、選択肢があるほど、折れにくいからです。
ストレスが高いとき、人は視野が狭くなります。
「これしかない」「もう無理」「どうせ変わらない」——
そんな思考に寄っていくのは、弱さではなくストレス反応としてごく自然なことです。
そこで、あらかじめ複数の選択肢を用意しておく。この“準備”が、ストレスの波に飲まれにくくします。
研究的にも、コーピングを状況に合わせて使い分けられる「コーピングの柔軟性」は、心理的な適応と関連することが示されています。たとえば、Chengら(2014)によるメタ分析では、ストレス状況に応じて対処を選び直せる人ほど、抑うつや不安といったストレス反応が低い傾向にあることが報告されています。
また、コーピングの柔軟性は、「うまくいかないやり方を手放し、別のやり方に切り替える力」として整理されており、Kato(2020)は、この切り替えのプロセスそのものが、ストレス反応の軽減につながる可能性を示しています。
ここで大事なのは、「コーピングが多い=何でもやればいい」ではないということ。
大切なのは、“自分に合う”やり方をいくつか持ち、そのときの状況や自分の状態に合わせて、選び直せる余地を残しておくことです。
コーピングの種類
コーピングにはさまざまな分類がありますが、
心理学的にも、実践に落とし込むうえでも、基本となるのは次の2つです。
- 問題焦点型コーピング
- 情動焦点型コーピング
大切なのは、「どちらが正しいか」ではなく、その状況でどちらがフィットするかを見ながら使い分けることです。
問題焦点型コーピング
問題焦点型コーピングは、ストレスの原因(ストレッサー)そのものに働きかけ、状況を変えることを目的とした対処です。
たとえば、
- 家事を曜日ごとに分担する
- 家事代行を頼む
- 仕事のタスクを細分化し、優先順位をつけ直す
- 上司に業務量の調整を相談する
といった行動がこれにあたります。
ポイントは、
「この状況には、変えられる余地があるか?」を見立てることです。
変えられる部分がある場合、問題焦点型コーピングはとても頼もしい手段になります。一方で、どうにもならないこと(たとえば他人の感情や、すぐには変えられない環境)に対してこの方法だけで対処しようとすると、かえって消耗が増えてしまうこともあります。だからこそ、問題焦点型は「使える場面を見極めて使う」ことが大切です。
情動焦点型コーピング
情動焦点型コーピングは、出来事そのものではなく、それによって生じた感情や認知の揺れを整えることを目的とした対処です。
たとえば、
- 友人に話を聞いてもらい、気持ちを整理する
- 日記に書いて、「何がつらいのか」を言葉にする
- 「誰にでも失敗はある」と捉え直す(リフレーミング)
- 深呼吸やマインドフルネスで“今ここ”に意識を戻す
といった方法が含まれます。
また、
- ちょっといいチョコレートを食べる
- 推しの動画を見る
- ふわふわのカフェラテを飲む
- 温かいお風呂にゆっくり浸かる
- お気に入りの本を再読する
- 植物の多い公園で散歩する
- 帰り道に寄り道する
- ぼーっと景色を眺める
といった気晴らしや回復を目的とした方法も、情動焦点型コーピングの一部として位置づけられます。
状況をすぐに変えられないとき、あるいは変えようとするとさらに疲れてしまいそうなとき、情動焦点型コーピングは特に重要になります。
「変えられない現実があるとき、まず心を守る」。それができると、結果的に視野が広がり、次の一手(問題焦点型)を考える余裕が戻ってくることも少なくありません。
どちらか一方ではなく、行き来できることが大切
問題焦点型と情動焦点型は、どちらか一方を選べばよいものではありません。情動を整えてから問題に向き合うこともあれば、問題を整理することで気持ちが落ち着くこともあります。
コーピングが「増える」「柔軟になる」とは、この2つを状況に応じて行き来できるようになることとも言えます。
自分にとって、
- どんなときに問題焦点型が使いやすいか
- どんなときに情動焦点型が必要になるか
を知っておくことが、「折れにくさ」につながっていきます。
この整理は、おまもりリスト(コーピングリスト)を作るときの軸としても、そのまま使えます。
次の章では、この2つの視点を踏まえて、コーピングをどう増やし、どう育てていくかを見ていきましょう。
コーピングスキルを育てる ―「おまもりリスト」を作り、育てるということ
コーピングスキルを高めることは、
新しいテクニックを覚えることではありません。
「自分をよく知り、選択肢を増やし、試しながら育てていくこと」
そのプロセス自体が、コーピングスキルです。
ここでは、コーピングリスト(おまもりリスト)を作り、育てていく流れとして整理します。
① まずは自分の“反応パターン”を知る(セルフモニタリング)
土台になるのは、「私はどんなストレスに弱いか」ではなく、どんなときに、どんな反応が出やすいかを知ることです。
たとえば、
- 注意されると、頭が真っ白になる
- 予定が詰まると、イライラが増える
- 眠れていない日は、涙もろくなる
- 生理前は、不安が強くなる
こうしたパターンが見えてくると、「またダメだった」ではなく、「この条件なら、こうなるよね」と理解できるようになります。
セルフモニタリングは、自分を責めるための作業ではありません。「私の取扱説明書」を作るためのものです。
② コーピングを“判断せずに”増やす(おまもりリスト作成)
次に行うのが、コーピングリストづくりです。
まず、ここで大切になるなのは、質より量、正解より発想です。
基本の流れは、次の通りです。
- これまで「助けになった対処」を書き出す
- それ以外も、良い・悪いを考えずに挙げる
- 1つの案を“枝分かれ”させて増やす
例:
出かける → 散歩 → 緑のある場所 → 川沿い → 朝の時間帯
- 発散だけでなく、問題解決の案も入れる
- タスクの立て直し
- 誰かに相談する
- 外部サービスを使う
一見ネガティブに見える案(例:「お皿を割りたい」)も、「自分や他人を傷つけず、安全な形に変換できるならヒント」になります。
最初の目的は、“使えるかどうか”を決めることではなく、選択肢を増やすことです。
③ 試して、振り返って、育てていく
コーピングリストは、作って終わりではありません。試しながら育てることが、本当の意味でのスキルアップになります。
振り返りの視点は、シンプルで十分です。
- どんなストレッサーのときに使ったか
- どのくらい気持ちが戻ったか(10点満点など)
- 効かなかったとしたら、
- 方法の問題?
- タイミングの問題?
ここで大切なのは、「効かなかった=ダメ」ではないということ。
その日は合わなかっただけ、今のストレスと相性が違っただけ、ということはよくあります。
コーピングは正解探しではなく、相性探しです。
④ コーピングリストを作るときのポイント(まとめ)
以下は、おまもりリストを“使える形”にするためのコツです。
- ストレスが少ない、元気なときに書く
→ しんどいときほど、選べなくなるため - いい/悪い、できる/できないをいったん脇に置く
→ 発想を殺さないため - 1つの案を枝分かれさせる
→ 選びやすい具体性が増える - 具体名を入れる(人・場所・物)
→ 迷いが減り、実行率が上がる - 時間・お金をかけない案も入れる
→ 「今すぐ使える枠」が心を支える - 1回効かなくても消さない
→ 相性やタイミングの問題がある - 更新ではなく“追加”していく
→ 人生の変化に合わせて、おまもりを増やす - 自分への言葉がけも入れる
→ 情動焦点型コーピングの強い味方になる
目標を100個にするのも、ひとつの方法です。
数を増やす過程で、
- 私はこういうときに弱りやすい
- こういう回復が、案外効く
そんな「自分への理解」が、自然と深まっていきます。
コーピングスキルとは、「自分を助ける準備力」
コーピングスキルが高い人とは、強い人でも、我慢できる人でもありません。
「つらくなったとき、戻って来られる道をいくつも持っている人」です。
おまもりリストは、未来のしんどい自分に向けて、今の自分がそっと用意しておく支援の形なのかもしれません。
まとめ
- コーピングは、ストレスへの対処法のこと
- 「これしかない」を減らし、「選べる」を増やすほど折れにくくなる
- コーピングの柔軟性(状況に合わせて選び直せる力)は、心理的適応と関連することが示されている
- おまもりリストは、元気なときに作り、試して育て、定期的に見直すのがコツ
- 発散だけでなく、問題解決や回復、時には「距離を取る/手放す」も含めて準備しておくと強い
もっと整理したくなったら ― Le:selfのサポートのご案内
ここまで読み進めてくださった方の中には、
- 「頭ではわかるけれど、実際に自分の場合はどう整理したらいいのかわからない」
- 「コーピングを考えようとすると、逆にぐるぐるしてしまう」
- 「一人でやるのは少ししんどいかも…」
そんなふうに感じた方もいらっしゃるかもしれません。
コーピングは、「正しくやる」ものではなく、
自分の状態に合う形を一緒に見つけていくものです。
そのプロセスを、誰かと一緒に整理すること自体も、ひとつの大切なコーピングになります。
◆ Le:selfのオンラインカウンセリング
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教育現場や医療・福祉の現場で経験を積んできたカウンセラーが、日常のストレスや気持ちの揺れについて丁寧にお話を伺っています。
- 「自分のストレスのパターンを整理したい」
- 「どんなコーピングが自分に合いそうか、一緒に考えてみたい」
- 「感情の扱い方や、疲れとの付き合い方を見直したい」
そんな方に、特におすすめです。
無理に答えを出す必要はありません。話しながら少しずつ言葉にしていくことで、「いまの自分に必要な関わり方」が見えてくることも多くあります。
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Le:selfでは、「私自身」でいられる時間を取り戻すことを目的とした
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)をベースにしたプログラムも提供しています。
ACTでは、
- ストレスや不安を「なくそう」とするのではなく
- それらを抱えたままでも、自分が大切にしたい方向に歩んでいく
という考え方を大切にしています。
今回ご紹介した
- コーピングを増やすこと
- 状況に応じて選び直すこと
- 自分の反応を観察し、やさしく扱うこと
これらはすべて、ACTの考え方とも深くつながっています。
「コーピングを“知る”だけでなく、“使える感覚”を身につけたい」
そんな方は、ACTプログラムもひとつの選択肢になるかもしれません。
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おわりに
ストレスを感じること自体は、弱さでも失敗でもありません。
それだけ、日々を一生懸命生きている証でもあります。
大切なのは、ストレスが来たときに、自分を追い詰めすぎずに戻ってこられる道をいくつ持っているか。
おまもりリストは、そのための準備です。今日すぐ完璧に作らなくても大丈夫。
思い出したとき、少しずつ足していけば、それで十分です。
あなたのこころに合ったおまもりが、これからの毎日を、ほんの少し支えてくれますように。
参考文献
- Cheng, C., Lau, H. P. B., & Chan, M. P. S. (2014). Coping flexibility and psychological adjustment to stressful life changes: A meta-analytic review. Psychological Bulletin.
- Kato, T. (2020). Examination of the coping flexibility hypothesis using the dual-process theory. Frontiers in Psychology.
